転勤族から夫の実家に帰って約40年近くを過ごした主婦が、大病を契機にお墓づくりを決意。家族と相談し、昔話に出てくるような古びた庭の石灯籠をお墓にリメイクすることを思いつきます。かつて暗い足元を照らしてくれた庭の石灯籠は、楽しかった時も、大変だった時も、庭から静かに家族を見守っていてくれました。気の晴れない日でも横を通れば何故か、心がほっこりと自然に心が和みました。「第29回全優石想いを込めたお墓づくりコンテスト」の「大賞」を、大阪府富田林市の入江英子さん(77歳)が石灯籠型お墓で受賞しました。
「全優石想いを込めたお墓づくりコンテスト」は、北海道から沖縄まで、全国の優良石材店約200社によって構成する墓石業者の全国組織「全優石」(正式名称:一般社団法人 全国優良石材店の会、会長:吉田 岳、事務局:東京都品川区上大崎2-7-15)が実施したもので、今年で29回目です。新しいデザインのお墓、個性的なお墓、オリジナルなお墓など、特別な想いを込めたお墓の写真を全国規模で公募しました。応募資格はお墓の所有者かその家族、または家族の了解を得た石材店という条件付きです。今年5月末の締切までに全国の25名から応募が寄せられました。審査の上、大賞1名、特別賞2名、入賞9名が決定しました。
既成概念にとらわれない大胆な発想で家族全員が賛成した石灯籠のお墓は、小さな庵のようであり、素朴でどこか風雅な趣があり、家族に馴染んだ佇まいを醸しだします。「夢にまでみた私たちらしいお墓に大満足です」と入江さん。
審査員からは以下のコメントが寄せられました。「思わず心がほっこり和むような素敵なお墓です。入江様のエピソードを拝見しますと、「大決断ではじめたお墓づくり、悩んで、ドキドキして、ホッとして・・・、家族みんながこんなにワクワクするイベントになるとは思いもよりませんでした」とあります。ご家族が、想い出を辿りながら、心を一つにして、楽しいお墓づくりをされている様子が目に浮かびます。きっとこれからもこのお墓がご家族のことをずっと見守ってくれるのでしょうね。こうした家族を幸せにする素敵なお墓づくりがもっと増えて欲しい、という願いを込めて大賞に選出させていただきました。」
お墓づくり特別賞には2名が選ばれました。静岡県沼津市の榊原 亮さん(45歳)は現代風「五輪塔」型お墓で入賞です。榊原さん家族は親子2代の石材店勤務です。ある日、石材業を四十年以上勤め、二十数年前に退職した父親に呼び出されます。すると亮さんがかつてデザインした五輪塔の図面を見せられます。平安時代から先祖供養のお墓として建てられてきた「五輪塔」を今風にアレンジした作品です。父親から「この五輪塔はとてもいい。これを原型に我が家のお墓を作ろう」と提案を受けました。父親から褒められたことにえも言えない感慨があったと語ります。お墓建立の記念に「想刻式」というオリジナルの儀式を行いました。「地球の恵みである石。人間の命と比べると計り知れない時間をかけて作られた石に敬意と想いを込め、年齢の数だけお墓に打刻する……」。そんな想いで亮さんの息子さんが近くの海岸で拾った石ころで、参加者全員が「トントン」「コツコツ」「タンタン」と、それぞれに年齢の数だけ五輪塔を打ちました。親子2代のお墓のプロが行きついた究極のお墓の形です。
静岡県藤枝市の渡邊尚子さん(55歳)は、亡き母が長年住んだ家の写真を彫り込んだお墓で特別賞を受賞しました。「和」をイメージして石塔を丸形にし、お墓自体を腰を掛けられるように工夫しました。お墓に腰かけることに最初は抵抗があったそうですが、次第に抵抗はなくなっていったといいます。むしろ今はそこに腰を掛けてほっとー息つく。何といっても特徴は、母と縁のあった多くの方に来てほしいと考え、その為の仕掛けとして、自宅の写真を彫りこんだことです。母が長年住んだ家の姿とあわせて、母とその方との思いを一つでもつないでくれたらうれしいと語ります。
入選は9作品です。山形県山形市の枝松勝利さん(78歳)は、親子3代家族全員が参加したお墓づくりで入賞です。
おじいちゃん、おばあちゃん、2代目ご夫婦、そしてお孫さん。それぞれが意見を出し合い、おじいちゃんが書いた「感謝」の文字入りお墓です。いい家族に恵まれ、幸せであることを「感謝」する心の現れだと語ってくれます。文字の上には、自宅の玄関先で出入りを見つめ、長らく心を癒してくれた「門かぶり松」を刻みました。
広島県豊田郡の中村ひとみさんは、漁業関係の団体に勤務する傍ら卓球に情熱を傾けたご主人のお墓で入賞です。「80才くらいになったら『ねんりんピック』に出たい、それまで卓球を続ける」と言っていたそうです。しかし、突然の病には勝てず、60歳代半ばで帰らぬ人となってしまいました。生前「これからお墓を作るのなら、生前その人が何をしていたか誰でも分かるようなお墓にしたい」、「ラケット型のお墓がいいな」と漏らしていたそうです。そこであちらの世界で卓球を続けさせてあげたいと言う「想い」で、「ラケット」と「ピンポン球」を配したお墓を建立しました。
神奈川県相模原市の清水順子さん(67歳)は、石の墓標の前にガラスの富士山を配したお墓で入賞です。ご主人は山のように動かない人だったので、不動の富士山をガラスで表現しました。富士山に月、そして桜。花壇墓地ということで、いつも色鮮やかな花々に囲まれた天国のようなお墓です。
群馬県前橋市の小平 卓さん(36歳)は、ゴルフ好きだった父親のためのお墓で入賞しました。ドーナツ状にくり抜いたお墓の前に、ゴルフボールをイメージした球形のオブジェを配しました。墓標には「心」の文字と、両脇の花立には「感」、「謝」の文字。優しかった父親へ捧げるありがとうのお墓です。
千葉県松戸市の保坂和志さん(50歳代)は、古いお墓のリフォームで入賞しました。家名の入った墓石を削り直し、「ふみあと」という言葉を刻みました。お母さんは登山が趣味で、前を歩いた人の後を追って歩く姿をイメージしました。苦労や幸せを感じて生きてきた母の姿と重なっていくように感じます。
埼玉県新座市の長谷川恵子さん(72歳)は、読書好きだった故人を彷彿とさせる、本のページをめくるイメージのお墓で入賞です。オリジナルデザイン区画がある墓地を探し当て、好きなデザインを希望出来るということで、参考イメージをスケッチ、本のページをめくる様なイメージのお墓を建立しました。誰かが亡くなってからお墓を建てる事は悲しいが、我が家は家族みんなで、何度も何度も話し合いがあり、その中でお墓の事だけではなく、様々な話をしていく中で、みんなの幸せの為にお墓を建てているんだと改めて感じる事が出来る貴重な体験でしたと語ります。
山梨県北社市の溝呂木忠・絢子さんご夫妻は、山梨県八ヶ岳南麓に移住し、この地でお墓建立を決意。移住して家を建てる時から敷地にあった自然石を墓石に加工しました。遠い昔、八ヶ岳から飛んできたか、流されてきたものか。この地が大好きな私達夫婦もいずれここに眠れるという安心感がありますと語ります。八ヶ岳の自然に抱かれ、自然に溶け込んでいく姿に清々しさを感じます。
大阪府大阪市淀川区の草野こころさん(46歳)は、姉の嫁ぎ先の八ヶ岳山麓に、急逝した母が眠るお墓を建てました。母親は保健師として長く活動し、いつも元気に走り回っていたそうです。でもどこか天然でヌケているところを真ん中のぽっかり穴で表現しています。その真ん中の穴には造花を飾り、年に2回程度交換していると言います。英語が好きだった母のために、墓石には「Always with you」のメッセージを彫りました。
埼玉県越谷市の古澤瑞枝さん(53歳)は、大病を患ったことが切っ掛けでお墓づくりをはじめました。藤の花のエッチングのガラスのお墓、墓誌にはめ込むステンドグラスなど、想い描いていた以上の素敵なガラス墓が完成しました。晴れた日には、日差しが締麗に映え、周りの木々までも映し出し、雨の日には、ガラスを伝う雫の透明感に癒されますと語ってくれました。
入賞者の多くは、家族が一丸となってお墓づくりに取り組んだことを、何物にも代えがたい貴重な体験をしたと語ってくれました。また、お慕は生きている私たちのためにある場所だと感じるという意見も多く寄せられています。これらの数多くのお墓づくりエピソードが、これから新たなお墓を建立される方々にいい意味での刺激となり、参考となることを期待します。 |