お墓は遺された人々の心の拠り所

全優石の「お墓にまつわる ちょっといい話エッセイ募集」入選作

を収載した「あなたはいつもそこにいる」が?アートデイズから刊行

感動と優しさが伝わってくる家族愛、人間ドラマ
                                


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「私のお墓の前で 泣かないでください そこに私はいません 眠ってなんかいません」という歌詞があるが、お墓の前に立つ人にとってはやはり「あなたはいつもそこにいる」。

全国から公募したお墓にまつわるエッセイ44篇を集めた「あなたはいつもそこにいる」(四六判 ソフトカバー 200ページ)が、株式会社アートデイズから発行された(編者・全国優良石材店の会)。

北海道から沖縄まで、全国の優良石材店約300社で構成する墓石業者の全国組織、「一般社団法人 全国優良石材店の会」(略称・全優石、会長・吉田剛、事務局・東京都品川区上大崎3-8-5)が「お墓にまつわる ちょっといい話エッセイ募集」(締切は2010年8月31日)を行ったところ、全国から370篇の応募が寄せられた。審査の上、最優秀賞1点、優秀賞3点、入選26点、佳作14点、合計44点が選ばれ「あなたはいつもそこにいる」に収載されている。

・お墓参りをすることで、生前の肉親と対話でき、勇気づけられる
・お墓で家族の記憶をたどることで、新たな生きる元気が沸いてきた
・一度はばらばらになった親戚の絆がお墓を建てることでまた一つになった
・生きている間には言えなかった言葉をお墓になら素直に言うことができた
・いがみ合っていた兄弟がお墓建立を契機に和解、助け合って生きていくことに
・事業がうまくいかなかったが、父や祖父の墓前で再起を誓う

それぞれの事情や置かれている環境は違っても、遺された人々が亡き人を想い、その人について家族で語り合い、そのことによって家族の絆が深まっていく。心に感動と優しさが伝わってくる、あるいは本当の家族愛が感じられる、中にはホロッと涙ぐんでしまう、「お墓にまつわる ちょっといい話」が集められている。「お墓は遺された人々の心の拠り所になっているのだ」ということを強く語りかける感動のエッセイ集といえそうだ。


<「あなたはいつもそこにいる」出版概要>
■定価 1,300円(税込み)
■監修者 吉田剛
■編者 全国優良石材店の会
■発行 株式会社アートデイズ
〒160-0008 東京都新宿区三栄町17 V四谷
電話03-3353-2298 FAX03-3353-5887
http://www.artdays.co.jp/
■発行日 2010年12月下旬
■販売 全国書店
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最優秀賞として収載された大久保さく子さん(東京都、72歳)のタイトルは「墓参りの喧嘩」。8月のお盆に亡夫のお墓参りをする道々での亡き夫との会話。やや歩行が不自由な身の大久保さんにとって、坂道の多い墓地への道は辛い。ついつい愚痴が出る。それを亡き夫は叱る。「あなたは良いわよね。景色の良いところに毎日、眠れて。生まれ故郷は最高だ、と思っているでしょう」とやり返す。お墓の前で夫の好物の料理をお供えする。「いいものね、夫婦で一緒に食べられるなんて。やはり墓参りは最高ね」。やがて二人の出会いの会話になる。「初めてのデートで、いきなりあなたに抱きしめられた」と大久保さんが言えば、「お前から。抱きついてきた」と亡夫。「うそよ。ゼッタイそんなことはない」と否定する大久保さん。「喧嘩を売りに墓参りにくる。こんな夫婦もめずらしいだろうな」「うん、仲が良かった証拠かもね」。二人がいずれこの墓に入っても、同じ口論をすると思う、と大久保さん。だが、お墓に入ってもこれだけはシラをきるつもり。ハンサムで格好の良かった夫を誰にも取られたくなく、振り向きざまに自分から夫にキスをしたことは。

優秀賞には3作品が選ばれた。得田聖子さん(兵庫県、34歳)は「終の棲家」で受賞した。「お墓なんかいらない」と言っていた祖母との想い出を綴る。夫の転勤でドイツ滞在中に妊娠。ほぼ同時期に祖母の末期癌が宣告された。祖母に初ひ孫を抱いてもらいたいとの思いもあり、帰国し日本で出産した。そして、宣告された余命期間を更新した祖母は無事に初ひ孫を抱いてくれた。実家でともに過ごした祖母との楽しいふれあい。やがてドイツに戻り、数ヶ月経った頃、祖母は旅立った。しかし、乳飲み子を抱え帰国はままならない。そのうち納骨も済ませたことを知らされる。その墓は「お墓なんかいらない」といっていた祖母が、晩年に購入したものだった。まだ一度も行ったことのない祖母のお墓。もう二度と会うことのできない祖母であるが、祖母の残してくれたお墓に行けばきっと会える。これは救いだと、得田聖子さん。

優秀賞の岡直人さん(福岡県、36歳)は「骨と記憶と遺伝子」で受賞した。都会で育った岡さんは、お墓のある実家の田舎町に夏休みになるとよく帰った。祖父に昆虫採取に連れて行ってもらい、いたずらをしても「男ん子はそんぐらい元気ん方がよかたい」と励まされた。大きく温かい祖父。その祖父が肺がんを告知され、病院に入院した。手術もできない状態だった。高校生だった岡さんは、涙を必死にこらえ病室に見舞う。すると死を受け入れた祖父は「なんかその顔は。どっちが病人かわからんめいが」。「よかか、よう聞きい。肉が無くても骨は残る。考える脳が無くても、家族の記憶に残っとう。血が無くても遺伝子はおまえに託したろうが。もうそれで充分たい」。

やがて息をひきとった祖父の葬儀、納骨を行う。いつか自らもこの納骨堂に並び、祖父や祖先と一緒に暮らすことになるだろう。だがまだ必死に生きなければ。記憶と遺伝子、先祖から引き継ぐ大切な仕事はこれからだ。出産間近の妻がそばにいる。


優秀賞の小神子眞澄さん(大阪府、68歳)は、「お墓の隅に指文字を」で入賞した。聴覚障害者の小神子さんは同じ障害を持つ夫とともに、夫の母の法事で田舎の島に帰った。そこで自分たちのお墓について考える。手話で「そろそろ自分たちお墓を用意しなくてはいけないね」。万一の時、仕事を持っている娘たちに任すわけにはいかない。人生の途中で耳が不自由になった自分たち夫婦には、見晴らしのよい場所がいい。人の声は聞こえないが、目は見える。夫婦で広々とした周囲を眺め、ゆっくりくつろぎたい。そしてひとめで、自分たちのお墓だと分かるお墓が良い。「ね、あなた。お墓の隅に指文字を彫ってもらわない?」。「ほー、そりゃ変わってるな」。「でなんて刻むんだい」。ちょっと考えた小神子さん。指文字で「あ・り・が・と・う」と答える。お参りにきてくれた人に「ありがとう」て言いたい。「そりゃいいね」夫はうなずいた。

入賞作の「グライダー」は、不破俊輔さん(北海道、68歳)のエッセイ。樺太から家族あげての苦難の引き揚げ。家族で苦労して内地に生活の拠点を築く。やがて引き揚げまもなく、樺太で亡くなった祖父の墓も建てた。その時、今度建てる時はもっと大きな墓を建てると誓う。ところが、父から引き継いだ事業も順調に拡大したが、数年前に倒産してしまった。「戦後のみんなの苦労を無にしてしまって申し訳ない」墓前にひれ伏した。それから3年、2010年の夏、墓参りをしながら、「もう少し待ってくれ。必ず墓を大きくするから」とお墓に誓う。闘志がわいてきた。

井深靖久さん(愛知県、42歳)の「ゆずり葉」。母の三回忌の法要で、この日が納骨。留守番の祖母を除いて、父親、井深さん、奥さん、息子さん娘さん、長弟家族、次兄家族が揃っている。父親が居並ぶ家族を前に「元々は俺と母さん二人だったが、見ろ、よくまあ、これだけ増えたもんだ」と満足げ。井深さんは、ふと母が好きだった「ユズリハ」のことを思い出す。その名のごとく、新しい葉が出るころになると、それまでの古い葉はそっと落ちていく。ちょうど子どもの成長を見届けた母が満足して逝くように。母は土に帰ったが、遺伝子は今も我々の中に生きている。

大橋りえ子さん(静岡県、57歳)の「来世もよろしく」。嫁いだ家では牛を飼い、畑仕事が日々の労働。しっかりものの姑がいて、厳しかった。やがて二男、一女の母となり、姑たちに子育てを手伝ってもらいながら、牛舎と畑で必死に働いた。姑からは幾らやっても、及第点はもらえなかった。内心、この人たちと一緒のお墓には入りたくないと真剣に思っていた。幾星霜、やがて姑が亡くなり、1年が過ぎた。古いものを整理していて10年も前に書いた姑の手紙を発見する。そこには「一筆申し上げます。いつも牛舎の仕事や家のこと、一生懸命やっておくれて、本当ありがとうございます。感謝いたします」とあった。大橋さんはその場で泣き崩れる。「いつも厳しかったお姑さんが、私のことをこんな風に思ってくれていたのだ…。今までのわだかまりが一瞬にして消えた。「あのお姑さんならやってゆけそうだ。私の骨も、同じお墓に入れてもらえるかな」

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